サーミスタとは、温度の変化によって電気抵抗値が大きく変動する性質を持つ半導体部品で、温度の検知や制御をおこなう際に幅広く利用されています。
業務用エアコンでは、室内を快適な状態に保つための重要なパーツとして組み込まれており、温度調整の役割を担っています。
しかし、繊細な構造をしているため、比較的故障が起こりやすいのも事実です。
本記事では、サーミスタについて紹介します。
他にも「サーミスタを使用するメリット」や「サーミスタを使用する際の注意点」についても解説していきます。
ぜひこの記事を参考にして、サーミスタについて理解を深めてみてください。
エアコンのサーミスタとは?

サーミスタは、業務用エアコンに搭載されている温度センサーの一種で、周囲の温度変化を感知するために用いられています。
この部品には、焼成処理を施した金属酸化物をセラミック化した素材が使用されており、わずかな温度の変化にも敏感に反応して電気抵抗値が変化するという特性を持っています。
適切な電圧を加えると、電気抵抗に応じて電流が流れ、この電流量を通じて周囲の温度が検知されます。
この原理をもとに、エアコン内部の制御回路は、現在の室内温度を把握し、設定温度とのギャップを調整する働きをおこないます。
また、サーミスタから得られる電流は、増幅器を介して指数関数的な特性を補正した後、電圧信号に変換され、より正確な温度制御へとつながっています。
サーミスタの抵抗値は、一般に温度が高くなるほど低下する特性があり、この変化を利用して、エアコンは室内温度を設定値に近づけるよう自動的に動していきます。
サーミスタの種類

サーミスタの種類については、以下の3つが挙げられます。
- NTCサーミスタ
- PTCサーミスタ
- CTRサーミスタ
それぞれの種類について解説していきます。
NTCサーミスタ
NTCサーミスタは、「Negative Temperature Coefficient」の略称で、温度が上がるほど電気抵抗が低下する特性を持つセンサ部品です。
このセンサの基本的な仕組みは、前述のとおり温度変化に応じて抵抗値が変わる性質を活用し、対象物の温度を測定するというものですが、温度が上昇するにつれて抵抗が下がる点が大きな特徴です。
また、微細な温度変化でも明確な電気的変化を捉えられるため、高精度な温度センサーとして広く使われています。
さらに、使用される材料が比較的安価で、量産もしやすいことから、コストパフォーマンスに優れたセンサとしても知られています。
使用可能な温度範囲も広く、-50℃〜500℃まで対応しており、家庭用製品から工業用途に至るまで、さまざまな分野で温度センサとして活躍しています。
形状も、リード型やチップ型など複数のタイプが製品化されています。
PTCサーミスタ
PTCサーミスタとは、「Positive Temperature Coefficient」の略で、温度が一定の閾値を超えると、それ以降は温度上昇に伴って電気抵抗が急激に増加するという性質を持つ温度センサです。
また、比較的大電流に耐えられるよう設計されている製品が多く、電流制限や過電流保護の用途でも広く使われています。形状としては、リード型やチップ型が主流です。
さらに、NTCサーミスタと同様に温度感知や過熱防止のセンサとして使用される一方で、自己発熱と自己温度制御機能を活かし、ヒーターとしても利用されています。
外部制御が不要で、使用条件を守れば安全かつ効率的に動作するので、省エネ効果も期待できます。
このように、PTCサーミスタは温度制御と安全保護の両面で大きな役割を果たす重要な電子部品と言えます。
CTRサーミスタ
CTRとは「Critical Temperature Resistor」の略で、比較的新しいタイプのサーミスタであり、NTCサーミスタと同様に、温度が上昇すると電気抵抗が低下する性質を持っています。
一般的なNTC・PTCサーミスタと比べると、CTRはまだあまり広く普及していませんが、常温付近での高精度な温度検出に適しており、家庭用エアコンや冷蔵庫といった家電製品、自動販売機などの機器にも温度センサとして採用されるケースが増えています。
サーミスタを使用するメリット

サーミスタを使用するメリットについては、以下の3つが挙げられます。
- サイズがコンパクト
- 高精度な温度検出が可能
- コストが低い
それぞれのメリットについて解説していきます。
サイズがコンパクト
サーミスタの特長の一つとして、コンパクトがあり、設置スペースが限られた機器内部にも容易に組み込むことができ、設計上の自由度が大きく広がるメリットが挙げられます。
特に、ポータブル機器やデザインの洗練が求められる製品では、サイズの小ささが大きなアドバンテージとなるのも事実です。
狭い空間に収める必要があるアプリケーションでも、サーミスタなら無理なく組み込むことが可能なので、スペースの有効活用に大きく貢献します。
また、他の電子部品との組み合わせも容易で、機器全体の小型化や軽量化を進める上で有効と言えます。
さらに、内部構成を効率的に設計することで、製品の性能向上やコスト削減にもつながります。
このように、サーミスタは電子機器や産業機器、家電など多岐にわたる分野で広く採用されており、複雑な回路設計の中でもコンパクトさと性能で存在感を発揮しています。
高精度な温度検出が可能
サーミスタは、温度のわずかな変化も正確に捉えることができる高感度な電子部品です。
その優れた検知精度により、電子機器内部での温度補償や過熱の防止、精密な温度制御が必要とされる場面で効果を発揮します。
温度変化に対して即座に反応し、動作の安定性を維持できるので、長時間の稼働が求められる機器においても、信頼性の高い温度監視を実現できます。
また、サーミスタを導入することで、製品の安全性向上や寿命の延長にも寄与し、長期的な信頼性を求めるさまざまな現場で活用されています。
コストが低い
サーミスタは、製造コストの低さと多様な用途への適応性により、コストパフォーマンスの高い温度センサとして知られています。
精度の高い温度測定機能を持ちながら、価格面でも手頃なので、限られた予算内での開発や大量生産が求められる製品への採用にも最適です。
このような経済的メリットに加えて、サーミスタは信頼性や性能にも優れており、コスト重視でありながら品質を犠牲にしない構成を実現できます。
そのため、医療機器や家電製品、産業用機器など、さまざまな分野で活用されています。
サーミスタを使用する際の注意点

サーミスタを使用する際の注意点については、以下の2つが挙げられます。
- 温度範囲が限定されてしまう
- 経年劣化による特異変化がある
それぞれの注意点について解説していきます。
温度範囲が限定されてしまう
注意点として、温度範囲が限定されてしまうことが挙げられます。
実際に、サーミスタは特定の温度帯においては非常に高い感度と精度を発揮しますが、その使用温度が設定された範囲を逸脱すると、特性に変化が生じることがあります。
特に、極端な高温や低温環境にさらされると、抵抗値の挙動が不安定になり、正確な温度測定が難しくなる場合があります。
その結果、測定値の信頼性が低下し、機器全体の性能にも影響を与える可能性があるのです。
そのため、サーミスタを設計やシステムに組み込む際には、事前に想定される温度範囲を明確にし、その範囲内で安定して機能するタイプを選定することが不可欠です。
また、より広い温度範囲への対応が必要な場合は、他の種類の温度センサーとの併用や補完的なセンサ戦略を取り入れることも検討するべきと言えます。
経年劣化による特異変化がある
注意点として、経年劣化による性能の変化が挙げられます。
長期間の使用によって、サーミスタ内部の材料が時間とともに劣化し、化学的な変質や構造の変化が起こることがあります。
こうした変化は、温度感知の精度に影響を及ぼし、当初の性能を維持できなくなる要因となります。
特に、高温や高湿度といった厳しい使用環境では、この劣化がより顕著に進行しやすく、誤差の発生やセンサー自体の寿命短縮につながるリスクがあります。
そのため、こうした環境での運用を想定する場合には、定期的な点検が不可欠です。
エアコンに使用されているサーミスタ

エアコンに使用されているサーミスタについては、以下の4つが挙げられます。
- 室温サーミスタ
- 配管サーミスタ
- 外気温サーミスタ
- オーバーヒートサーミスタ
それぞれのサーミスタについて解説していきます。
室温サーミスタ
業務用エアコンの室内機には、室内の気温を感知するための温度センサーが内蔵されています。
室温サーミスタは、現在の室温を検出し、そのデータをエアコンの制御ユニットへ送信します。
これにより、リモコンで設定された目標温度に近づけるように、空調の運転状態が自動的に調整される仕組みとなっています。
配管サーミスタ
配管サーミスタは、業務用エアコンの配管内を通る冷媒(ガス)の温度を監視するために使用される温度センサーです。
室内機および室外機の両方に取り付けられており、冷媒が設定された適正な温度範囲で循環しているかを常時確認し、システム全体の安定した運転を支えています。
外気温サーミスタ
業務用エアコンの室外機に取り付けられている外気温サーミスタは、屋外の気温を正確に検出する役割を担っています。
このセンサーは、室内機側の温度センサー(室温サーミスタ)と連携し、取得した外気温データをもとにコンプレッサーの運転制御を最適化することができます。
これにより、効率的で快適な空調制御が実現されます。
オーバーヒートサーミスタ
オーバーヒートサーミスタは、業務用エアコンの室外機に設置されており、コンプレッサーの温度を常時監視するために使用されます。
外気温の影響などでコンプレッサーの温度が異常に上昇した際には、過熱を素早く検知し、コンプレッサーの動作を自動的に停止させることで、システムのオーバーヒートや重大な故障を未然に防ぐ役割を果たしています。
エアコンのサーミスタが故障してしまうと起きる不具合

エアコンのサーミスタが故障してしまうと起きる不具合については、以下の2つが挙げられます。
- 設定温度にならない
- 動作が不安定になる
それぞれの不具合について解説していきます。
設定温度にならない
エアコンに搭載されている温度サーミスタが故障すると、室内の温度調整が正常におこなわれなくなります。
センサーが誤った情報を検知することで、実際の室温とは異なる温度をエアコンが認識してしまい、結果として設定温度に達しないまま運転が続いてしまいます。
例えば、部屋が冷えているにもかかわらず、故障したセンサーが「室温が高い」と誤認すると、冷房のような冷風が送られ、暖房としての機能を果たさなくなるケースが挙げられます。
このような問題は、センサーが誤作動することで引き起こされるので、温度センサーの故障には早期の発見と対応が重要です。
動作が不安定になる
エアコンには複数の温度サーミスタが搭載されていますが、室内用サーミスタ以外のサーミスタに不具合が生じた場合でも、運転動作に影響が出ることがあります。
例えば、室外機に取り付けられている外気温センサーが故障すると、ファンの動作が不安定になり、頻繁に停止と起動を繰り返すような挙動が見られることがあります。
しかし、原因がセンサーに限られるわけではなく、ファン内部にゴミや異物が挟まっているといった物理的な要因で同様のトラブルが発生するケースもあるので判断には注意が必要です。
エアコンのサーミスタが故障したと思われる際の対処方法

エアコンのサーミスタが故障したと思われる際の対処方法については、以下の2つが挙げられます。
- 温度センサー部分を掃除する
- 専門業者に点検を依頼する
それぞれの対処方法について解説していきます。
温度センサー部分を掃除する
エアコンのサーミスタが故障したと思われる際の対処方法として、温度センサー部分を掃除するようにしましょう。
実際に、エアコンの室内サーミスタが正しく室温を感知できない場合、その周囲に汚れが付着している可能性があります。
センサーがほこりなどで覆われてしまうと、正確な温度を読み取れず、エアコンの動作にも影響を与えてしまうので、センサー周辺の清掃を定期的に行うことが重要です。
温度センサーがフィルター裏の格子状の部分に設置されている場合、まずフィルターの掃除から始めるようにしましょう。
掃除機で表面のほこりを軽く吸い取った後、汚れがしつこい場合はフィルターを取り外して水洗いし、しっかり乾燥させてから元に戻していきます。
また、センサーがエアコン本体の側面や下部に配置されているタイプでは、周辺のカバー部分にたまったほこりを拭き取ることで、センサーの機能が回復することがあります。
このように、正しい動作を維持するためにも、清掃はこまめにおこなうようにしましょう。
専門業者に点検を依頼する
室内サーミスタ周辺の掃除をおこなってもエアコンの動作が改善しない場合、原因は別の温度センサーの不具合やその他の部品の故障にある可能性があります。
故障箇所が特定できない場合は、無理に自分で判断せず、専門の修理業者に相談するのが安心です。
エアコン修理のプロであれば、どの部品に異常があるかを的確に診断し、必要に応じて交換や修理をおこなってくれます。
しかし、対応内容や料金体系は業者によって異なるため、修理費だけでなく、対応スピードや訪問日程の柔軟さなども含めて比較検討するようにしましょう。
まずは複数の業者から見積もりを取って、自分の条件に合った依頼先を選ぶのがおすすめです。
サーミスタの故障が疑われる場合は修理依頼しよう!

今回は、サーミスタについて紹介しました。
サーミスタは、周囲の気温の変化を検出するために使われる温度感知用のセンサーです。
温度の変化に応じて抵抗値が変動する特性を活かし、エアコンなどの運転制御に重要な役割を果たしています。
実際に、エアコンの各種サーミスタがどれか一つでも故障している場合でも、外見からその異常を見分けるのは難しいのも事実です。
そのため、不具合が見られた際には、エアコンの動作状況や症状を手がかりに、速やかに原因を特定し、的確な対処をおこなうことが求められます。
今回の記事を参考にして、サーミスタの故障が疑われる場合は修理依頼しましょう。
コメント